UTalk / どう処理する? 震災がれき

北垣 亮馬

工学系研究科・講師

第39回

どう処理する? 震災がれき

東日本大震災では、大津波が家屋や車を一挙に押し流し、被災地は無惨にもがれきの山と化しました。大量に残された建設系廃棄物は、今後どのようなプロセスを経て処理され、何に再利用されるのでしょうか? また震災に限らず、普段、老朽化した建物の解体時に出る廃棄物はどこに運ばれ、どのように姿形を変えてい るのでしょうか? 6月のUTalkでは、資源循環シミュレーションや再生コンクリートに関する研究をリードされている北垣亮馬さん(工学系研究科・講師)をゲストにお迎えします。

 6月のUTalkは東京大学工学系研究科・講師の北垣亮馬さんをお迎えしました。

 1978年生まれの北垣さんは廃棄物処理と建築材料工学がご専門とのこと。会が始まると、さっそく今回の東北大震災による被害の整理から入られました。今回の大震災は津波以外は防災関係者の想定の範囲内の規模であったとのこと、しかし津波が予想の範囲を超えてしまったために今回の大きな被害が起きたとのことでした。また、地震が起きたことによって地盤が下がり、潮の満ち引きによってコンクリートが海水に断続的にさらされる地域もあり、長期的な建物への被害も予想されるとのこと。
 北垣さんによれば、今回の災害は工学の変化を促されるとのことです。今回の災害は地元の人も防災対策を行った科学者にも想定外の規模で発生しました。今までの防災対策では、社会が上限として妥当と想定した災害の規模とその対策にかけられるコストは大まかに言って比例してきました。しかし、今回のように想定を超える規模の災害には、あまり準備をしておらず、防災対策の役割を果たせていたとは言えませんでした。では、対策をしても想定外のことが起きるなら、その対策は意味がないのでしょうか。そんなことはないと北垣さんは語ります。災害に対するある程度の備えがないと、頻繁に起こる小さな自然変異にも、思わぬ被害をうけることが考えられ、人間はたえず不安を抱えながら生活をしていかなければならなくなります。それゆえ、対策は必要なのです。しかし、これからは想定された災害規模・範囲で、それに見合ったコストをかけて準備するモデルではうまくいかないと指摘します。社会が妥当と想定した災害規模を超越する災害について、今後どのように準備すべきか、この実現のために工学は新たな変化を促されているように感じる、とのことでした。

 現状で東北での課題は主に3つ。①早期のがれき撤去によるライフラインの復旧、②原発事故による電力供給の問題などの二次災害、③災害後にかかわる経済上の問題。
 このうち北垣さんが注目し研究されているのは、①のがれき撤去の問題です。現在被災地のがれきはその膨大な量のために、思ったようには処理が進んでいません。この処理で重要なのは、仮置き場と中間処理場です。現在、現地に作られている仮置き場から、中間処理場にがれきを運び処理が行われています。しかし、被災地の中間処理場は内陸部に残るものが多く、処理が思うように進んでいないとのことでした。試案として、東京湾沿岸にはたくさんのがれきの処理場があるので、そこへバラタンカーで輸送する案や、がれきをそのまま再利用し、中部地方の輪中地帯のように埋め立てを行う案を提案する人もいるとのことです。

 処理場でのがれきに関連して、廃コンクリートの再生化処理技術について,日本は世界有数の技術を持っており、その最先端として,加熱すりもみ処理によりセメントと石を分ける技術があるとのこと。北垣さんは、この分解の工程に着目し、より簡便に分解できるコンクリートを研究されています。このコンクリートは、表面を特殊コーティングすることによって従来のコンクリートよりも力学特性が向上し、かつマイクロ波をあてることで解体しやすくなるのだそうです。

 質疑応答では、参加者からの都内でコンクリートがれきが出そうになったらどうするのか、という質問が出されました。北垣さんによると、実は現在、高度成長期に建てられた建物がちょうど入れ替わりの時期にあり、がれきが多く発生している。しかし、再利用の主な用途となっていた道路の舗装は公共事業の削減によって道路工事が減ったことにより、供給過多になっていおり、どこも受け入れが難しいとのことでした。
 また、がれきを輸出できないのか、との質問については、バーゼル条約(廃棄物の国境を越えた移動の規制に関する条約)を紹介され、現時点では難しいが,どのレベルならば製品として輸出可能かについて説明されました。

 参加者の方々は紹介された被災地の写真に見入り、質疑応答も参加者の方からの質問が次々と飛び出すなど、東北大震災から3ヶ月の節目の日にふさわしい内容の会となりました。
 当日はあいにくの天気でしたが、足下の悪い中足をお運びいただいた参加者のみなさま、密度の濃い時間を提供して下さった北垣さん、ありがとうございました。

[アシスタント:中野啓太]