UTalk / 世界を分けよう、分類マンダラ

三中 信宏

農学生命科学研究科・教授

第30回

世界を分けよう、分類マンダラ

8月のUTalkには、進化生物学・生物統計学をご専門にされている三中信宏さん(農学生命科学研究科教授/独立行政法人農業環境研究所生態系計測研究領域上席研究員)をお招きします。三中さんは、現在、「系統樹の推定」に関する研究をされています。「分類マンダラ」とはどのようなものでしょうか?当日は、皆さんと一緒に「分けるということ」について考えていけたらと思います。

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 8月のUTalkでは、進化生物学・生物統計学をご専門にされている三中信宏さん(農学生命科学研究科・教授/独立行政法人農業環境研究所生態系計測研究領域上席・研究員)をお招きして、分類するということはどういうことなのかを数多くの具体例を交えながら、お話いただきました。  

 まず、家系図を紹介しながら、お話は始まりました。家系図を作るという習慣は、1000年も昔からつづいていて、紹介された家系図では、名前の他 に髪の 色などの身体的特徴も表現されていました。このように家系図という形で、たどることのできる系譜には社会的に重要な役割があったそうです。 家系図のような形で系統樹を作るとものごとが進化していく様子を表現することができます。「進化」という言葉で真っ先に連想されるのは、まず生物ですが、 生物以外のものであってもまるで進化のように、系統をたどることができるという例を示していただきました。具体的には、『百鬼夜行』の絵巻物が時代を経て 写本されていく中で、ある鬼の登場の順番など様々な特徴が変化していき、それ をたどることで絵巻物の系統樹を作ることができるというお話でした。このように様々な系統樹について紹介されましたが、特に印象に残っているのは、全長3メートルにわたる、宗教の変遷についての系統樹です。いすの上に立ち 上がって広げて、それで初めて全体像が見えるという巨大な図表でした。元々は いくつかの宗教だったものがそれぞれに影響を与えながら、融合し、あるいは分岐しながら、まるで川の流れのように拡大し、現在のようにいくつもの宗教へと 広がっていく様子は圧巻でした。この資料は、現在日本で所蔵されているものは 、ほとんど無く、非常に貴重なものなのだそうです。
 
 ここまでで紹介されてきた「分類する」という考え方自体は、様々な学問の中にそれぞれ存在していて、様々な学問をまたぎながら、それでいて共通するものなのだそうです。分類することそのものの特徴を考えていくことを楽しんでいるというように感じられました。
 
 また、非常に多くの資料が紹介され、どのようにして集めるのか?という参加者 の方からの質問に対しては、「本を読むのも集めるのも好きで、古書店などで見かけたときにはめぐりあわせを感じ、その場で集める。」とおっしゃっていまし た。中でも、古書店で貴重な資料に出会った際に、前金だけおいて後日購入したり、海外の書店からわざわざ配送を頼んでまで資料を集めたというエピソードか らは、大変な熱意を感じられました。
 
 質疑応答では、分類の客観性についてなどの質問が飛び出しました。客観的な分類などはなく、分類の中には常に何らかの恣意性がつきまとう。一方で、何らかの分類をしなければ思考することはできず、その中で納得のできる分類を考えて いくのが分類学だというお話でした。また、系統を作っていく際に、系統の真実 の姿はネットワーク状に近く相互に連関しているが、人間の頭には直感的に理解しづらい表現であり、ツリー状の一方向的な表現の方が理解しやすいというお話 も出ました。 また、実際の系統樹はどのようにして作られているのか?という質問には、類似している点を見つけて、それがあった場合は、その祖先も同じような特徴を持っていたのだろうと考えながら、ひとつずつ作っていくという具体的なお話がありました。
 しかし、一方で、似た特徴を持ちつつも実は違う仲間であることもあるので注意が必要なのだそうです。
 
 質疑応答は非常に白熱し、UTalk終了後も、活発な質問のやりとりがみられました。ふだん何気なく目にしている系統樹や、ふだん無意識的に行 なっている分類などの考え方について、新しい視点から考えさせられるひとときでした。三中様、 参加者の皆様ありがとうございました。
  
[アシスタント:平川裕也]