UTalk / 建築と社会学の際

南後 由和

情報学環・助教

第27回

建築と社会学の際

5月のUTalkでは、ゲストに、建築・都市空間に対して社会学の視点から研究をされている南後由和さん(情報学環・助教)をお招きします。 南後さんはどうして建築や都市空間に興味を持ったのでしょうか?また、それを社会学という枠組みで捉える中で、どのようなことを感 じられて今に至るのでしょうか? 建築という領域の特殊性と社会学との狭間で葛藤しつつ研究する姿に少しでも迫ってみたいと思っています。

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 5月15日のUTalkでは、建築・都市空間に対して社会学の視点から研究をされている南後由和さん(情報学環 助教)をゲストにお招きし、「建築と社会学の際」をテーマに研究活動についてお話をいただきました。

 関西で育った南後さんは、ニュータウンや梅田・なんばといった大都市を目にし、都市やマスに興味をもち社会学を専攻とされました。同時に南後さんは、建築は趣味として好きだったとおっしゃいます。関西で安藤忠雄建築に多く触れ、また一般誌や建築のガイドブックなどにも興味を持たれました。「建築と社会学の際」の第一線で研究される南後さんの姿勢は、かねてから自然と醸成されてきたもののようです。
 学部生時代に南後さんが衝撃を受けたのはアンリ・ルフェーヴルの『空間の生産』の考え方です。今まで建築家や都市計画家のものと認識されていた空間ですが、ルフェーヴルは住民自体も「空間の生産」の主体だ、と唱えたのです。南後さんは社会学をもとに、学部生時代は主にこのような理論的な研究をなされました。
 大学院修士課程では、より建築分野にも入り込まれていきました。修士論文のテーマは「シチュアシオニスト」。60年代に「状況の構築」や「漂流」などの概念を提唱し、「地図を書き換える」試みをした芸術家のグループです。
 博士課程に進むと、時間が自由に使えたといいます。その中で南後さんは自分の好きな分野にさらにのめりこんでいきます。博士課程でのテーマの1点目は、グラフィティ文化のフィールドワーク。姿を見せないグラフィティ・ライターの実態に興味をもち、インタビュー等を行われました。2点目は、建築家の有名性が社会にどう影響しているか、ということです。専門誌、一般誌における建築家のイメージの違いということにも関心を持たれました。同時に南後さんは書籍、雑誌での執筆、対談やインタビュー、シンポジウムでの講演も行われるようになりました。博士課程時代からこのような発信の機会に恵まれたのには、建築界の特殊性があるといいます。つまり、実物を見るには地理的、物理的な制約があり、めまぐるしく動く建築の今を伝えるため、建築に関する雑誌等の数が多いということです。

 博士課程を単位取得退学された後、助教として社会学、そして建築の視点から様々な活動に取り組まれています。そのうちの一つが「建築の際」。「教員と学生との関係も一方通行的ではつまらない」という南後さん。このイベントでは、福武ホールを会場に、建築家や異分野の専門家、学生が対話する場を企画し公開しています。また企業からの依頼を受け、「デザイナーズ集合住宅の過去・現在・未来」展では企画・監修を行われています。
 南後さんの今後の活動にも参加者の注目が集まりました。夏に共編著で出される予定の『文化人とは何か?』(仮)という書籍では、有名性の研究をもとに、知識人ではない「文化人」の実態に迫るそうです。東京国立近代美術館で8月8日まで開催中の「建築はどこにあるの?」ではカタログに原稿を書かれています。ブログ読者の皆さまも足を運ばれてはいかがでしょう。

 「人前で話すのは得意ではない」と笑う南後さんですが、終始やわらかい口調で話され和やかな雰囲気でのUTalkとなりました。南後さんのお話のあとは質疑応答も活発に行われました。社会学を専攻しながら建築を学ぶ上で辛かったことは何か?という質問には、こう答えられていました。社会学と建築では研究者がおもしろがる部分が違い、修士課程時代に建築学科のゼミで発表しても反応がよくなく辛かった。しかしそれは同時に、自身の立場が相対化される経験でもあった、ということです。

 南後さんの研究に対する姿勢からは、一学生としても学ぶところが多かったです。「建築と社会学の際」という新しい分野にチャレンジする南後さんに対しては、社会からの関心も非常に高いことがわかりました。南後さん、貴重なお話をありがとうございました。参加者の皆さまもありがとうございました。これからもUTalkをよろしくお願い致します。

[アシスタント:清宮涼]