UTalk / 編み物のための読み書き

中村 雄祐

人文社会系研究科・准教授

第14回

編み物のための読み書き

ボリビアの開発問題への取り組み

 途上国の経済発展のためには読み書きの教育が必要、とよく言われます。もちろん、そういった試みもすでに広く行われています。けれど、それが「編み物のため」の読み書きだったら?一見、編み物は読み書きとは別の話のようですが...。  4月のUTalkでは、途上国における読み書き問題の研究や支援にフィールドワークを通して取り組んでおられる、中村雄祐さん(人文社会系研究科・准教授)に、なぜ「編み物のための読み書き」なのか、現地の人びとの目線に寄り添ったお話をしていただきます。

 4月11日のゲストは、人文社会系研究科・准教授の中村雄祐さんにお越しいただきました。
中村さんは、発展途上国、特にラテンアメリカの先住民諸言語話者を対象として職業訓練やNonformal教育の調査研究をなさっています。今回は 現地でのフィールドワークを基に、近現代世界における「読み書き read and write,算術 numeracy」の必要性についてお話くださいました。
 
 まず「平均寿命と一人当たり年間読み書き用紙消費量」のグラフを皆でみました。グラフからは年間紙総消費量と平均寿命指数は密接に結びついているこ とがはっきり表れていました。つまり経済的に豊かな国ほどたくさん紙を使い、暮らしの中で読んだり書いたりしている。そして長生きできるということが明ら かであるとのことです。

 そして、実際に取り組まれている発展途上国でのフィールドワークから、南米ボリビアで行った読み書きの支援についてお話になりました。
 ここで中村さんは、ボリビア女性が編んだ子供用のピンクのセーターを取り出しました。一見何の変哲もないセーター。しかしよく見ると、実は肩のライ ンがまっすぐに編まれています。これでは子供が腕を自由に動かせず、商品価値がないと知り、参加者はハッとした表情をみせていました。
  これを直すには立体的な編み方をしなければならないのですが、それを学習してもらう方法がなかなか大変です。いわゆる「先進国」で暮らす私たちが学 校教育で身につけるような「読み書き read and write,算術 numeracy」を自由に操れない彼女たちに、どのように編み方を伝えるか?
 中村さんは、日本人のボランティアの方が持ち込んだ日本の編物マニュアルに注目しました。ボリビアの女性たちは、もちろん日本語の解説はわからない けれど、わかりやすい図解の部分を見よう見まねで参考にしていたのです。そこで、このマニュアルをケチュア語とスペイン語に訳したテキストをつくったとこ ろ、これが好評となりました。「編み物のための読み書き」。
 中村さんは日本の編物マニュアルをケチュア語とスペイン語に訳し、図解とのコンビネーションのテキストを作ったことで、編み物を通して読み書き算術を教えるという方法を取られたそうです。編み物と読み書きの関係が一本の線としてつながった瞬間でした。

 中村さんのお話から「現場ではどうすればよいのか」を皆で話しあい、参加者からの質問も尽きない様子でした。桜の咲くあたたかい春の日差しの中、貴重な時間を作ってくださった中村さん、お越し下さった参加者の皆様、ありがとうございました。

[アシスタント:帯刀菜奈]