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026:2006年度 第6回 2006年11月11日開催

学習科学とICTは学びのあり方を変えるか
パネルディスカッション

1. パネルディスカッション

メンバー

  • Roy D. Pea
  • 大島 純
  • 三宅なほみ

コーディネータ

  • 山内祐平(東京大学・BEATフェロー)

Q:学習科学はICTだけでなく、学習活動もデザインしていると思いますが、特にICTがあったからうまくいったということを教えてください。また、Portableというのは、学習理論でよく使われている転移(Transfer)とどう違うのでしょうか。

三宅どういうかたちでICTを使うかを考えた場合、まず学習のサポートとしてのあり方が考えられる。しかし、学習を記録するツールと考えた場合、これまでの学習研究で得られたデータと性質が変わるので、研究のあり方そのものが変わる可能性がある。きちんとしたデータを元にした学習理論はまだ無いので、これによって教育に対する我々の考え方が変わってくる可能性がある。
Transferはシステム的な解釈で、「こういう条件が満たされていれば、こうした現象(転移)が起きる」という使われ方をする。私がPortableと言う場合、そこでは単なる現象ではなくて、知識の所有者の存在を意識している。所有者が知識を全く異なった問題の解決に用いることができることをPortableと呼んでいる。

Q:協調学習というものはそもそも日本の文化に合うのでしょうか。欧米のものを輸入して日本で用いて効果が出るのでしょうか。また、協調学習で効果が出る学習内容はどのようなものでしょうか。

大島 純 大島実は北米で議論されている協調学習には、日本から輸入されたものが多い。協調学習と文化との関わりについては私も明確な答えを持っていない。今回説明した事例で言うと、文化よりは学習内容に特化したデザインが重要であると考えている。協調学習に否定的な学生が、「Jasper」をやってみたら、いつまでもやっていたことから感じたことは、人は協調が必要なところではちゃんと協調するのではないか、ということだ。しかし、ある課題について協調するかしないかを判断するのは最終的には学習者であると考えている。

Q:「Diver」は我々が自由に使えますか。また、映像を使うに当たり、コミュニティ構成を何か考えていますか。

R-Pea私自身は「Diver」を広く使っていただきたいが、スタンフォード大学からの資金で開発しているので、大学がどのようなライセンス形態を取るかを判断する。コミュニティ構成については、「Diver」は可塑性を持っているので幅広い分野に使っていただきたい。ただし、オンライン・コミュニティはただ大きくなればいいわけではないので、共通部分を持った人々でコミュニティを形成するべきだと考えている。

Q:ICTを使うときに、ビデオ(記録映像)を用いるメリットは何でしょうか。

三宅講義をビデオにとって、テキストとビデオで学生自身の理解がどう変化するかを検討したところ、テキストは学習すべきところが明確化しやすくまたいつでも見返すことができるなどの利点をもっているが、ビデオは現実世界と同様に学習すべき事を明確に提示することが非常に難しいことがわかった。教材としてビデオを使うのであれば、視点を明確にして、それに対する解釈を付加して共有できるなどの支援が必要である。他に、研究対象としての学習過程の記録として、学習過程はこれまで詳細に分析されたことがほとんどないので、ビデオや音声記録の意義は大きい。

大島ビデオの解釈は難しいだけに、そこから何かが得られたとしたらそれは大きな発見になると思われる。指導のためのテキストをドキュメントで作成しても実感がわかないので、ビデオを用いて説明をしたところ、それでも解釈が難しかった。それは見ている側に「Professional Vision」が無いからどこを見て良いのか分からないのである。

Roy D. Pea R-Peaアメリカでは教員の間で映像はホットな話題で、各種のサービスに加入している人も多いが、重要なのはその背後にある哲学である。映像教材は昔からあって、先生の代役を務めることもあるが、それを見た学習者に残っている知識はばらばらで、記憶に残っていない。キーボードを使える年齢ならば、映像をどのように解釈したかを入力させて教師とコミュニケーションさせるなどしなくてはならない。映像の可能性として私が考えているのは、自分の体験を記録して、そのビデオ(記録映像)を後に見たときにどのような学びがあるのか、ということである。授業を記録して、このとき先生は何が言いたかったのか、隣の生徒は何を考えていたのかということを考えることによって、授業への理解が深まるのではないかと考えている。

Q:協調学習をビジネスに応用している例はありますか?

R-Pea企業教育での協調学習には2つイメージがあると考えられる。1つは、人事部などが企画する、トップダウン型の協調学習である。もう1つは、よりインフォーマルなもので、自分が持っている知識を自発的にシェアしようというものである。IBMが積極的にこのような取り組みを行っているが、別の見方をすれば、IBMのような企業でも、そのような知識の共有がこれまでは進んでいなかったことを示している。

三宅なほみ 三宅この質問に対してはもっと良い返答ができる方が他にいらっしゃるだろう。私の経験から話すと、中京大学では通信制の大学院をやっているが、そこでは常にメンターをつけてバックグラウンドが異なる人たちが議論をする。受講生の人たちがそれに触発されて、自分の職場で部署が違う人同士が議論する場を設けたところ大変に有効だった、などの報告は何度か受けている。協調は苦手という人が多いが、一度良い協調場面を経験してみると、かなり積極的に自分から協調過程を引き起こそうとすることもあるようだ。

山内:最後に、「学習科学」をもっとアピールしていただけませんか。

大島色々な意味で学ぶことの必然性が高まってきている中で、みなさんの中には、教育心理学などでは、自分が欲しい答えとは全く異なったものが提供されている、と思っている人がいらっしゃると思う。そういう経験をされた方こそ、学習科学に触れてみると何かが得られると思います。

三宅日本にコラボレーションの文化があるか、無いかという話が先にあったが、おそらく文化の問題ではない。どのような文化であっても、自分の考えで世の中を良くしたい、お金を儲けたいと考えた場合、一人では必然的に物事が動かない。学習科学は、協調的な認知過程の解明を基礎においている。
ある一定の知識レベルで満足をする場合は一人でも良いかもしれない。しかし、今の知識のレベルで十分であると皆が考えた場合、人類の将来はあまりないと考えている。人が種として生き残るためにはもっと賢くなる必要があると考えている。それが必要と考えるか考え無いかは研究者個人個人の判断だろう。
学習科学のもう一つの魅力はは、人間は面白いと言うことである。サイエンス・フィクションやミステリーでは、人間でないものをどれだけ人間のように描くかということが重要であるが、そこで一番面白いことは人間がどのように変わっていくか、ということだろう。その変化は学習であり、それを研究するのが学習科学なので、それは最もエキサイティングな分野だと思う。脳と遺伝子の仕組みがどれだけ解明されても学びの過程の全貌はまだまだ解明できないと考えている。

Peaアメリカでは2年前に国立科学財団を設立したが、最初に行ったことは9,000万ドル費やして大きな学習センターを作ることである。学習に関して非常に高い関心があることのあらわれである。学習科学の領域は多岐にわたるが、我々がしなくてはならないことは、学習へのパスを複数用意しなくてはならないことである。その学習に求められていることは効率性とイノベーションをバランスさせることである。

学習科学とICTは学びのあり方を変えるか 山内私の領域は一般的に教育工学と呼ばれる領域ですが、学習科学より、テクノロジーの色合いが強い。また、理論よりは実践の蓄積を重視しているところが学習科学と違うところだと思う。私自身は学問体系にはあまりこだわっていない。私の領域から見ても学習科学には面白い知見がたくさんある。
学習科学では、ICTを使う場合、学習とICTを直接つなぐのではなく、間に「協調」という概念を持っている。そのような概念を持っていることは非常に強く、学ぶべき点である。また、テクノロジーを作るだけでなく、それに伴う活動もデザインしているという点が大変興味深い。様々なテクノロジーが過去には存在してきたが、使われずに消えていくものが多い。さらに、研究や評価などさまざまな言い方があるが、「学習の様子」をしっかりと見つめていることが注目できる。これは絶対に必要なことで、教育や学習に関わる人にとって、学習科学は必修科目であると考えている。

学習科学とICTは学びのあり方を変えるか ビデオ(記録映像)は大変リッチなメディアなので、学習に用いると効果が高そうな気がしますが、リッチなだけに教える側と学ぶ側の視点が共有しづらいという問題があります。また、協調学習においては、自分と他者の考えの違いを把握していかに新たな学びを生み出していくかが課題であり、それには「互いの視点を共有すること」が大変重要になります。何らかの知識を伝えるためには、「視点の共有」が大前提として存在していることを今回のセミナーでは実感させられました。それを実現するためのテクノロジーのデザイン、活動のデザインを心がける必要があると考えます。

テーマ

'Special' Seminar
学習科学とICTは学びのあり方を変えるか
- 高等教育の変革を事例として -

日時
2006年11月11日(土曜日)
午後2時より午後5時30分まで
場所
東京大学 本郷キャンパス
工学部2号館北館1F、213大講義室
定員
定員200名
11月のBEAT公開研究会は、学習科学の世界的研究者であるスタンフォード大学Roy D. Pea先生、中京大学 三宅なほみ先生、静岡大学 大島純先生という豪華ゲストをお迎えして、「学習科学とICTは学びのあり方を変えるか」というテーマで'BEAT Special Seminar'としてお送りします。

インターネットの急速な普及により、教室にコンピュータや携帯電話などのテクノロジーがある姿はめずらしいことではなくなりました。しかしながら、これらのテクノロジーが学習環境に統合され、人々の学びを支えているかといえば、全くそうなっていないのが現状です。

その原因として、人はどのように学んでいて、どうすれば支援できるのかという原理を意識せずにテクノロジーを導入していることがあげられるでしょう。このセミナーでは、学習科学の第一人者が「人はいかに学ぶか」に関 する学習科学の知見を援用しながら、ICTを導入して教育実践を改善しているケースをご報告いただき、学びの場の構成において重要な原則を共有したいと思います。

事例は高等教育ですが、学習の原理そのものは子どもから大人まで共通したものが多いですので、多様なフィールドに示唆が得られる研究会になると思います。ICTを用いた学習環境に興味がある方は「必見」の研 究会です。多くの方のご参加をお待ちしております。

企画責任者:山内祐平(東京大学情報学環/BEATフェロー)
内容
●企画趣旨
pm2:00-pm2:10
山内祐平 (東京大学)

【第1部】

●プレゼンテーション1
"The need to understand life-wide learning across contexts"
pm2:10-pm3:00
Roy D. R-Pea(スタンフォード大学)
(同時通訳がつきます)

休憩10分

●プレゼンテーション2
「大学における教員養成系プログラムの改革:知識構築共同体を目指して」
pm3:10-pm3:40
大島 純(静岡大学情報学部 教授)

●プレゼンテーション3
「大学生の協調学習とICT」
pm3:40-pm4:10
三宅なほみ(中京大学)

休憩10分

【第2部】

●グループディスカッション
pm4:20-4:50
(参加者の方にグループで話し合って質問を出していただきます)

●パネルディスカッション
pm4:50-5:30

メンバー
・Roy D. R-Pea
・大島 純
・三宅なほみ

コーディネータ
東京大学 山内祐平(BEATフェロー)
参加費
無料

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