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020:2005年度 第12回 2006年3月25日開催

BEAT 特別セミナー 研究成果報告会
「Kids K-tai」プロジェクト成果報告

0. 趣旨説明

このプロジェクトは、児童全員がケータイを所有し、小学校に持っていくことが当たり前になったとき日々の学習や周りの大人たちとのコミュニケーションにどんな変化が起きるのか。少し先の子どもたちの学習環境を先取りした活用研究となっています。お茶の水女子大学附属小学校でのケータイを使った活用授業についての報告です。

まずは、堀田龍也BEAT客員助教授より、概要について説明がありました。

1. はじめに

堀田龍也 ベネッセの調査によると2004年の段階で、既に大都市圏での小学生の携帯電話所有率は3割を超えている。所有率は今後上昇していくものと思われる。しかしながら、学校現場にも保護者にも、小学生が携帯電話を持つことについて大きな不安がある。このような状況を数年前に予測できなかったことと同様に、数年後に携帯電話の位置づけが現在とは予想がつかないものになっているかもしれない。このプロジェクトは携帯電話が初等教育の現場に導入されたときに、どのようなメリットがあるかを実践的に検討することを目的とし、学習ツールとしても携帯電話の可能性を探ることが目的である。

1.1. 実験デザイン

まずは、子どもたちに「安心な携帯電話」を持たせる。安心な携帯電話とは、親から見て不安な要素を取り除いた携帯電話である。メールのやりとりとホームページの閲覧は許可したアドレスのみ、学習コンテンツを利用できるといったものである。それによって、みんなが調べた情報が集まる、お互いの考え方に共感し共同するといった、新しい学習環境が生まれる可能性について検討する。それらが実現した次の段階として、安心な携帯電話に慣れた保護者と子どもたちが、さらにどんな機能があればよいか、どんなコンテンツがあればよいかについて検討した。

1.2. 研究の体制

研究は、以下のような体制で行われた。

  • 東京大学大学院情報学環・BEAT
    →研究推進・総括
  • NTTドコモ
    →システム等提供
  • ベネッセコーポレーション
    →コンテンツ提供
    →事務局
  • お茶の水女子大学子ども発達研究センター
    →付属小との調整
  • お茶の水女子大学附属小学校 先生、児童、保護者
    →活用実践協力
    →アンケート協力

2. 実証実験

続いて、ベネッセコーポレーションの秋山大志氏から実証実験について報告がありました。

2.1. 実証実験の流れ

秋山大志 実証実験は2005年の9月中旬から2006年の2月末にかけて行われた。携帯電話は児童に38台、保護者に38台、先生に4台の計80台貸出した。貸出機種は市販品のF901icで、NTTドコモから本体の提供を受け、各種制限機能を設定したものである。事前と事後で携帯電話の学習活用等に対する意識変化を量るために、9月中旬の実証実験開始時と携帯電話を回収した2月中旬に保護者、児童に対してアンケートを行った。

2.2. 実証実験の準備

実証実験の準備において、まず、お茶の水女子大学附属小学校に学校関係者を通じて協力を依頼した。携帯電話の学校現場への導入にはやはり一部の先生に抵抗感があったが、受発信制限や機能制限などの安全対策を行うことを前提に了承していただいた。その後の保護者会でも、子どもに携帯電話を持たせたくないという保護者の方もいたが、子どもが保護者の管理下にある小学生のうちに、携帯電話の正しい使い方を学ぶ必要性があることを説明し、実験が行われることになった。学校や保護者との調整と並行し、実証実験に使用するシステムをNTTドコモにご用意いただいた。

2.3. ケータイの授業

2005年9月20日から週1,2回の頻度で実施。総合学習と協力頂いたクラスの担任である辰巳先生が担当されているアートの時間を当てた。授業内容は、まず初めに携帯電話の基本的な操作方法、システムの利用方法などについて行ったが、更なる活用を考える上で先生の負担が増える懸念があったため、実証実験の途中で授業アシスタントを導入した。

2.4. フィールドワーク(校外学習)

総合学習の時間に児童がグループで、「ふるさと発見」をテーマにした校外学習を計3回行い、そこで携帯電話を活用した。1回目は携帯電話のカメラ機能を使って取材を行い、それらをメーリングリストを用い、参加児童に加えて保護者にも情報共有した。2回目と3回目は取材内容をNTTドコモ提供のVisual掲示板を用いて情報共有した。

2.5. モバイルラーニング

「Kids K-tai」プロジェクト成果報告 NTTドコモ提供のモバイルラーニングシステムを使用した。PCで先生が自ら問題の作成ができるようにし、出題にご協力いただく先生もご紹介頂いたが、現実的に多忙な現職の先生が携帯電話向けの問題を作成することは難しく、先生との協議の結果、事務局側で問題を用意することにした。小学校の冬休みから出題を開始し、指導要領に準拠した問題に加えて、携帯電話のモラルやリテラシーに関する出題もした。3学期からはより本格的に、ベネッセコーポレーション提供の進研ゼミ小学講座、チャレンジ6年生の付録のドリル問題を抜粋し、出題した。

2.6. お茶の水女子大学附属小学校・公開研究会

お茶の水女子大学附属小学校で2月17日に行われた現職教師向けの公開研究会にて、今回ご協力頂いた辰巳先生による携帯を活用したアートの授業が行われた。「携帯でつなごう色いろお風呂」というテーマで、児童を取材班と学校班に分け、校外の取材班児童が取材したものを、携帯電話でVisual掲示板にアップロードして、学校班児童がそれをPCで閲覧して意見を掲示板に書き込む。また、校外の児童とのコミュニケーションにテレビ電話機能やケータイメールを活用した。なお、この授業の前日には同じテーマでアナログ版の授業がおこなわれており、携帯電話の代わりに事前に紙や色鉛筆を用いた取材、模造紙や画鋲を使った発表、集合形式での意見交換といったものが行われた。

2.7. 卒業旅行

実証実験の対象期間外ではあるが、ご協力頂いた小学校の卒業旅行にて携帯電話を活用して頂いた。児童1グループに1台ずつ、計24台、引率先生用に6台を用いて、自由行動時のロールコール、引率先生間、先生・児童間の連絡、携帯電話+Visual掲示板を使った取材が実践された。ロールコールとは、定期的に電話をして、子どもたちの安全確認と、計画通りに活動しているかをチェックするものである。

3. システム

次に、NTTドコモの石田氏より、システムついて詳細な説明がありました。

3.1. システムの概要

石田悦子 コンセプトは「コミュニケーション」と「e-Learning」の統合環境の実現である。
「コミュニケーション」は、親・子・先生間のコミュニケーションの促進をねらい、基本的な機能はダイヤル発着信の制限を活用した安全な音声通話、モバイル閉域接続サービスを利用した安全なメール機能となっている。応用的な機能として、メーリングリストを利用した一斉同報、メールを利用して静止画を投稿できるVisual掲示板を設置した。
「e-Learning」では、子どもの日々の学習を指させる教材の携帯電話での提供をねらい、先生が授業の進行に合わせた問題を、携帯電話で簡単に出題できるシステムを実現した。これらの機能をまとめて「わくわくキッズポータル」としてNTTドコモより提供した。携帯電話からはインターネットへ直接アクセスできないようにして、学習に必要なサーバーにのみアクセスできるようにした。また、PCからはインターネットを経由して学習に必要なサーバーへアクセスができるようにした。

3.2. 安心安全に配慮した機能

通話機能は暗証番号によって制限されており、発着信は電話帳に登録されている人とのみ可能となっている。また、メール機能は、インターネットを経由せずに、閉域接続サービスを利用した。メールは電話帳に登録された人とのみ、送受信できるようにした。有害サイトへのアクセスや迷惑メール受信の危険性がない安心、安全に配慮したシステム、携帯電話であることを、保護者に十分理解していただいた上で、利用していただいた。

4. アシスタントからの感想

村石瞭子 次に、東京造形大学の村石瞭子氏から実際に授業のアシスタントをした経験についてお話を頂きました。

携帯電話があって良かったと感じたことは、校外の活動において、安全性を高められたこと、自由活動の時間を多くとれたことである。逆に課題だと感じたことは、友達関係が密な児童の場合、さらに交流を深める良いツールになるが、友達関係が良好でない児童の場合、現実逃避の道具となることである。携帯電話は使い方によって良いものにも悪いものにもなります。携帯電話をよりよいものにしていくことは、我々大人の課題であると考える。

5. 利用ログ・アンケートの分析

次に、再びベネッセコーポレーションの秋山氏から利用ログ・アンケートの分析の速報について報告がありました。

5.1. 通話・メール利用

データ集計期間は、2005年9月20日から2006年2月13日の147日間、集計対象は、実験参加者間のトラフィックのみを対象とした。
通話の総発信数は、2756回で1日平均19回となる。総通話時間は70.5時間で一日平均28.8分となる。参加者は80名なのでこれは一人あたり1日に1回も発信していない計算になる。一方、メールは総発信数が61,435通で、一日平均418通となる。これは一人あたり平均5通のメールをやりとりしている計算になる。
グループ別に見てみると、児童はメールの利用が主なのに対して、保護者は通話の割合が多い。男児の親が女児の親と比べて利用が少ないのは、親子の関係の違いからと思われる。週別発信数を見ると通話数は実証実験後半に向けて少なくなり、メール数は逆に増加している。

「Kids K-tai」プロジェクト成果報告 時刻別発信数を見てみると、帰宅の連絡に用いられたせいか、16時台のトラフィックが増えている。メールにしても同様である。通話利用についてグループ間のトラフィックを見てみると、最も多いのは「親子間」の通話である。続いて「児童間」である。メール利用について圧倒的に多いのは「児童間」である。続いて「親と児童間」である。

5.2. Visual掲示板・モバイルラーニングの利用状況

Visual掲示板の投稿数は742記事、投稿写真数は545枚、コメント数は734コメント、アクセス数は4283回であった。モバイルラーニングの出題数は8回で計58問、提出率は45%から70%、正答率は35%から100%で平均84%であった。

5.3. アンケートの集計結果

「Kids K-tai」プロジェクト成果報告 親子ともに、5割以上がVisual掲示板、モバイルラーニングについて肯定的であった。携帯電話の学習利用については、事前と事後で子どもは肯定が減少した。逆に、親は肯定的が増加した。
子どもについては、サービスについての満足度は親と比較して高いが、事前と事後を比較すると、学習に役に立つというイメージは下がっている。親は逆に若干増加しており、携帯電話を用いた学習の具体的な事例を示していくことが重要かと思われる。自由回答を見ると、携帯電話の利点や欠点を事前に理解させるべきだった、大人側の姿勢が問われる問題だと認識していなかったという意見が出てきた、携帯電話について教育をする必要性を再認識させられる結果であった。逆に、学習に役に立つものだとは思わなかった、学習の可能性が広がったと言った肯定的な自由回答もあり、携帯電話ならではの機能や特性を生かした学習への活用の「具体的」な提案の必要性を実感した。

6.「Kids K-tai」プロジェクトのまとめ

堀田龍也 最後に再び堀田氏に総括をしていただきました。

安心な携帯電話とは、通話やメールを保護者がコントロールする機能を備えているということも重要であるが、メーリングリストによる連絡や指示、サポートといった、「つながっている感」が得られることも必要である。
モバイル学習については、児童が観察したことを共有する仕組み、簡単なドリルコンテンツを届ける仕組みだと言うことができるが、この仕組みに合わせて既存の学校のカリキュラムを組み替える可能性について検討すべきである。保護者と児童全員に渡して使ってもらうと、通話機能が先に使われるが後にメール中心へシフトしていき、最終的にはメールの方が圧倒的に多くなる。利用時間帯は通話もメールもそれほど変わらない。男児の親と女児の親で差があるといったことがわかった。今後は個人に注目して分析をする必要がある。学習ツールとしての携帯電話については、児童はあまり使えないと判断したが、保護者は学習にも使えると判断した。親の不安は軽減されたとは言い難いが現状認識が進んだようである。

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