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Beating 第99号
2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第5回:紙の書籍と電子書籍では親子の読み聞かせはどのように異なるか?

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東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
メールマガジン「Beating」第99号     2012年8月28日発行
現在登録数 3,040名

2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第5回:紙の書籍と電子書籍では親子の読み聞かせはどのように異なるか?
http://www.beatiii.jp/?rf=bt_m099

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みなさま、こんにちは!

日中の日差しは強いものの、吹く風はどことなく秋の気配が漂ってきましたね。

この夏に実施したBEATのソーシャルラーニングプログラム「Socla」も、
おかげさまで無事に終了し、全国から集まった高校生が自分の進路に対する
問いを深めて巣立って行きました。

さて、Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」第5回では親子の読み聞か
せにおけるメディアの影響について取り上げます。また、次回BEATセミナーの
ご案内も掲載しています。開催が迫っていますのでどうぞお見逃しなく。

では、Beating第99号のスタートです!

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★CONTENTS★

【特集】2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第5回:紙の書籍と電子書籍では親子の読み聞かせはどのように異なるか?

1. お知らせ・BEAT Seminar 2012年度第2回 BEAT公開研究会
「安心して学べるソーシャルメディア環境」開催迫る!

2. お知らせ・UTalk
「医療と社会を対話でつなぐ」のご案内

3. 編集後記


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特集─────────────────────────────────
━━ 2012年度Beating特集「いまどきのミレニアムキッズ」
第5回:紙の書籍と電子書籍では親子の読み聞かせはどのように異なるか?
Chiong, C., Ree, J., & Takeuchi, L.(2012)Print Books vs. E-books.
URL:http://joanganzcooneycenter.org/upload_kits/jgcc_ebooks_quickreport.pdf
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インターネットが一般家庭に普及するようになり、子どもの頃からあたりまえ
のようにインターネットやコンピュータを使いこなすデジタルネイティブと
呼ばれる世代が登場してきました。「いまどきのミレニアムキッズ」では、
そんな子ども達のメディア利用の現状と、これからの教育に何が求められて
いるのかを、研究者へのインタビューや最新の研究を取り上げながら探索して
いきます。
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──

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近年、書籍の電子化が進んでいますが、紙の書籍と電子書籍では、親子の
読み聞かせ活動にはどのような違いが見られるのでしょうか。
第5回は、前号で紹介されたアメリカの調査機関The Joan Ganz Cooney Centerの
親と子の読み聞かせに関する最新レポートを紹介します。
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●問題と目的
今日の電子書籍(iPad、Kindle Fire、NOOK Color用に作られたものを含む)は、
単純に紙の書籍を電子化したものを表示するプラットフォーム(通常の電子
書籍)から、マルチメディアのような体験を生み出し、より高度なインタラク
ションを誘発するツールとしての電子書籍(多機能の電子書籍)へと進化しつつ
あります。このようなメディアの違いは、親子の読み聞かせ活動にどのような
影響を与えるのでしょうか。本研究では、1.紙の書籍、2.通常の電子書籍、
3.多機能の電子書籍を取り上げ、メディアの違いが親子の読み聞かせ活動に
どのような影響を与えるのか、観察と分析を行いました。

リサーチクエスチョンは次の通りです。
1.親と子ども、子どもと書籍とのインタラクションはメディアによって異なるか?
2.子どものストーリーに対する理解度は、メディアによって異なるか?
3.子どもの積極的関与の度合いは、メディアによって異なるか?


●方法
対象:32組の親子を、博物館の来館者から募りました。集まった子ども(3~6
歳)のうち、11人が男児(平均年齢は4.64歳)、21人が女児(平均年齢は4.05
歳)でした。また、全体の2/3の子どもは母親と書籍を読み、その他の子ども
は父親か他の家族のメンバーと書籍を読みました。参加者の大多数は白人で
中流から上流の社会経済的階級の人たちでした。

手続き:調査に使用した書籍は、次の基準に従って選定しました。
(a)3~6歳児の子どもにとって適切であること
(b)サイエンスがテーマになっていること
(c)10分程度で読むのに十分な短さであること
(d)子どもの電子書籍を出版している、認知度のある出版社によって作られて
いること
(e)紙のバージョンも手に入ること

タブレット端末を使った親子の読み聞かせには、今後のマーケットシェアを
考慮して、Apple社のiPadを使用しました。本研究で得られた知見が、実際の
iPadで扱える多様な種類の電子書籍で応用できるよう、電子書籍は2種類の
タイプを使用しました。1つは通常の電子書籍、もう1つは多機能の電子書籍で
す。また、順序効果を打ち消すために、半数の親子のペアには電子書籍を先に
読んで貰い、他の半数の親子のペアには紙の書籍を先に読んで貰いました。
そして、親子の読み聞かせ活動が終わった後、ストーリーの理解度を測定する
ために、インタビューアーは子どもにいくつかの質問をしました。

これら全ての行程はビデオテープに録画し、またインタビューアーがノートを
取りました。そして記録したテープとノートをもとに、2人の調査者が、
子どもの積極的関与の度合いと、書籍を介在させた親子間のインタラクション
の種類と頻度について、コーディングを行いました。評価間の一致率は93%で
した。
そのコーディング結果を用いて、親子間、子どもと書籍間でのインタラクショ
ンの種類と頻度、子どものストーリーの理解度、子どもの積極的関与度合いを
評定し、分析しました。

●結果と考察
1. 親と子ども、子どもと本とのインタラクションはメディアによって異なる
か?
通常の電子書籍は、紙の書籍と同様に、ストーリーに関係した行動(たとえば、
対象物を呼んでみる、指を指す、ストーリーの内容について言葉で表現すると
いう行動)を親子から引き出していたことが分かりました。一方、親子に多機
能の電子書籍を読ませた場合は、紙の書籍を読ませた場合と比べて、ストー
リーの内容と関連した行動はあまり見られず、ストーリーの内容と無関係な
行動(たとえば、デバイスに関する会話をするということ)を多くしていました。

→多機能の電子書籍は紙の書籍や通常の電子書籍に比べて、ストーリーと無関
係なインタラクションを多く促すため、読み聞かせ活動をする上ではあまり有
効ではないと考えられます。

2. 子どものストーリーに対する理解度は、メディアによって異なるか?
多機能の電子書籍を読んだ子どもは、紙の書籍を読んだ子どもに比べて、スト
ーリーの詳細をほとんど再生できませんでした。一方、ストーリーの主要な
部分の説明を求められた場合、子どもはどの形態の書籍を読んだとしても、
同程度に回答することができていたことが分かりました。

→親も子どもも、多機能の電子書籍を使用した場合、ストーリーに関連した
ことよりもストーリーと関係のないことの方に注意が向いたということから、
多機能の電子書籍の特性が、子どものストーリーの再生に影響を与えたのだと
考えられます。

3. 子どもの積極的関与の度合いは、メディアによって異なるか?
親子でのインタラクション、子どもと書籍とのインタラクション、親と書籍と
のインタラクションや楽しんでいるというサインなどを含めた、総合的な積極
的関与度合いを測定したところ、63%の親子が3つの形態の書籍とも同程度の
関与度合いを示しました。しかし、31%の親子は、電子書籍よりも紙の書籍の
方が積極的関与度合いが高く、紙の書籍よりも電子書籍の方に高い積極的関与
を示した親子は、わずか6%でした。

子どもと書籍間の積極的関与(たとえば注意を向けたり、タッチしたりといっ
た行動)のみの測定結果を見ると、約60%の子どもたちは、どちらの形態の
書籍でもほぼ同程度の積極的関与を行っていました。しかし、残り40%のうち
半数以上の子どもたちが、紙の書籍よりも電子書籍の方が積極的関与の水準が
高いことが示されました。また、子どもは、多機能の電子書籍を使うことで、
紙の書籍や通常の電子書籍よりも多く、デバイスとの身体的なインタラクショ
ンをしていました。

→紙の書籍は、リテラシーを育てる読み聞かせ活動をするという点では、電子
書籍より優れていることが分かりました。一方、電子書籍、特に多機能の電子
書籍は、子どもに積極的な関与を促し、身体的なインタラクションを誘発する
という点で、紙の書籍より優れているとChiongらは指摘しています。

●まとめ
Chiongらの研究によって、多機能の電子書籍は、紙の書籍、通常の電子書籍と
比較して、全く異なる親子の読み聞かせ体験を生み出していることが分かりま
した。彼らはこの研究で得た重要な知見から次の2つの提案をしています。

【電子書籍のデザイナーに向けた提案】
多機能の電子書籍の機能、特にストーリーと直接関係しない機能を付与する際
は細心の注意を払うべきです。親が各種環境設定をすることで、子どもとの読
み聞かせ体験を自由にカスタマイズできるよう、電子書籍の機能をデザインす
ると良いでしょう。

【親や教育者に向けた提案】
「ただ楽しませたいだけ」というよりも、リテラシーの育成を優先させたいの
なら、紙の書籍か通常の電子書籍を選択して、子どもとの読み聞かせに使うべ
きでしょう。多機能の電子書籍を選択した場合、読み聞かせ活動をしている
大人と子どもは、それに付与されている機能の方に注意が向いてしまい、自然
発生する会話や、ストーリーの詳細に関して子どもが再生する量に影響を与え
てしまうかもしれません。しかし、もし早期のリテラシー発達へのきっかけを
与えてあげたいと願うなら、多機能の電子書籍は、モチベーションの低い子ど
もたちに積極的な関与を促す、という点で重宝するでしょう。

●今後の課題
本研究は、わずか32組の親子と、特定の2種類の電子書籍を用いて実験された
ものであるため、この調査結果をより広範囲の親子や他の電子書籍に対して
一般化するには限界があると考えられます。

今後の研究では、参加者数と扱う書籍を増やして調査を行うことに加えて、
どのような特徴の電子書籍が有効であるのか、また、副次的な学習や会話に
ついても体系的に検討するべきでしょう。さらに、参加者層の違い(たとえば
低所得層の家庭や英語を母国語としない家庭など)によって書籍の使い方が
どのように異なるのかを更に調査すべきであると彼らは締めくくっています。


◎特集記事協力◎
梶浦美咲/東京大学 大学院 学際情報学府 修士1年


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おしらせ・BEAT Seminar  ─────────────────────
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2012年度第2回BEAT公開研究会
「安心して学べるソーシャルメディア環境」開催迫る!
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BEAT(東京大学情報学環ベネッセ先端教育技術学講座)では、
2012年度第2回 BEAT Seminar「安心して学べるソーシャルメディア環境」を
9月1日(土)に開催致します。

近年のソーシャルメディアの普及が進む状況において、SNSやオンライン
サービス利用における個人情報保護やメディアリテラシー教育の問題など、
利用者が安心して利用できるソーシャルメディア環境のあり方への関心が
高まっています。

今回のBEATセミナーでは、オンライン学習環境における学習者支援のための
eメンタリングについて研究されている松田岳士氏(島根大学・教育開発
センター/准教授)に、オンラインの学びの場における人的なサポートの
重要性や体制作りについてお話しいただきます。そして、企業でソーシャル
メディア運営を行う立場から、藤井琢倫氏(株式会社サイバーエージェント・
アメーバ事業本部/ゼネラルマネージャー)に実際のサービス運営における
取り組みについてお話しいただき、安心して利用できるソーシャルメディア
環境の人的、システム的なサポート体制について議論を深めたいと思います。

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日時:2012年9月1日(土)14:00~17:00

場所:東京大学 本郷キャンパス 情報学環・福武ホール(赤門横)
福武ラーニングシアター(B2F)
アクセスマップ>> http://www.beatiii.jp/seminar/seminar-map50.pdf

内容:
14:05-14:45
1.講演1「eメンタリングが支える学びの場づくり(仮)」
松田岳士(島根大学・教育開発センター/准教授)

14:50-15:30
2.講演2「Amebaのコミュニティ運営における取り組み(仮)」
藤井琢倫(株式会社サイバーエージェント・アメーバ事業本部/ゼネラル
マネージャー)

15:40-16:00
3.参加者によるグループディスカッション

16:00-17:00
4.パネルディスカッション「安心して学べるソーシャルメディア環境」
司会:
藤本 徹(東京大学・大学院情報学環/特任助教)
高橋 薫(東京大学・大学院情報学環/特任助教)
パネリスト:
松田岳士
藤井琢倫
山内祐平(東京大学・大学院情報学環/准教授)


定員:180名(定員になり次第締切りますので、お早めにお申し込みください)
参加費:無料
懇親会:セミナー終了後1F UT Cafeにて 参加希望者(3,000円)

お申込みはこちら
↓↓↓↓↓↓↓↓
http://www.beatiii.jp/seminar/index.html



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お知らせ UTalk ──────────────────────
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「医療と社会を対話でつなぐ」のご案内
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UTalkは、様々な領域で活躍している東京大学の研究者をゲストとして招き、
毎月開催するイベントです。カフェならではの雰囲気、空気感を大切にし、
気軽にお茶をする感覚のまま、ゲストとの会話をお楽しみいただける場と
なっています。

9月のUTalkでは 、市民と医療者がフラットに対話できる場「みんくるカフェ」
を主催されている孫大輔さん(東京大学医学教育国際協力研究センター講師)
をお招きします。孫さんはご自身の総合医としての経験を通じ、どのような
経緯でカフェ型ヘルスコミュニケーションの企画に至ったのでしょうか。
カフェ実践の内容や今後の展望などについてもお話いただく予定です。

みなさまのご参加をお待ちしています。

日時:9月8日(土)14:00~15:00

場所:UT Cafe BERTHOLLET Rouge(東京大学 情報学環・福武ホール併設・
赤門側)
http://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/access.html

参加費:500円(ドリンク付き/要予約)

定員:15名

申し込み方法:UTalkホームページ
https://fukutake.iii.u-tokyo.ac.jp/utalk/
の参加申込フォームに必要事項をご記入の上、お申し込みください。

※申し込みの締め切りは8月31日(金)までとします。
なお、申し込み者多数の場合は抽選とさせていただく場合がございます。
ご了承ください。


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 編 集 後 記 ──────────────────────
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Beating第99号は、お楽しみいただけたでしょうか。

冒頭でもご紹介したソーシャルラーニングプログラム「Socla」は、7月28日に
スタートし、全国から約60名の高校生が参加しました。参加者の高校生は、
Facebook上に設けた学習コミュニティにおいて、大学生や社会人の支援者の
方々との対話を通して、自分のキャリアに関する問いを深めて行きました。
期間中に、Socla公式Facebookページにおいて実施した高校生の一般公開質問
にご協力くださったみなさま、本当にありがとうございました。おかげさまで、
8月11日に無事に成果発表会を終えることができました。本プログラムにつき
ましては、2013年3月のBEATセミナーで報告させていただく予定です。

また、次回9月1日のBEATセミナーでは「安心して学べるソーシャルメディア
環境」をテーマにみなさまと議論を深めて参りたいと思います。
若干お席にゆとりがございますので、ぜひご参加ください。

ご意見・ご感想をお待ちしております。

「Beating」編集担当 高橋 薫 (たかはし かおる) kaorutkh@beatiii.jp

-------次回発行は9月25日の予定です。

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情報を発信しています。Beatingで紹介している情報以外にも多くの情報を
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□発行:東京大学大学院 情報学環 ベネッセ先端教育技術学講座「BEAT」
Copyright(c) 2012. Interfaculty Initiative in information Studies,
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