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2008

2015/06/11

【開催報告】ラーニングフルエイジング研究会 第8回「高齢者の学習環境としてのMOOC」

 学び続け成長する存在としての高齢者、その学習にはいったいどのような課題があり、それに対して私たちはどのような方法をとりうるのでしょうか。ラーニングエイジング研究会は、ミネルヴァ書房から2015年度刊行予定の書籍『ラーニングフルエイジング:超高齢社会における学びの可能性』との連動企画です。本研究会は、超高齢社会に向けた学びの可能性について様々な研究者と話し、多角的に考えていきます。

 

 8回の公開研究会は425日(金)に福武ホールで開かれました。ゲストは東京大学大学院情報学環教授の山内祐平さんです。山内さんには「高齢者の学習環境としてのMOOC」というタイトルで、昨今話題になっているMOOCについて、高齢者の学習にとってどのような意味を持つのかを東京大学の事例を踏まえつつお話しいただきました。

 

 MOOCMassive Open Online Course:大規模公開オンライン講座)とは、インターネット上で無償で受講できる大学の授業のことです。2011年にスタンフォード大学で始まり、現在では世界中のトップレベルの大学が様々な授業を提供する等、広がりを見せています。また、受講者の国籍も多岐にわたり、世界中の人々がMOOCにアクセスし大学の授業を受講しています。

 

 では、なぜこれほどまでにMOOCは注目されているのでしょうか。山内さんはMOOCが注目されている要因として次の3つを挙げています。

 1つ目は、高等教育に巨大な新市場が生まれる可能性があるためです。MOOCで開講する授業には世界的なトップ層の学生が集まります。そのため大学にはMOOCで授業を提供することで、優秀な学生を集めることができるという利点があります。

 2つ目は、大学の授業に影響を与える可能性があるためです。オンライン学習を予習教材として使用すれば、大学での対面授業をさらに高度化することができます。こうした「反転学習」と呼ばれる手法が注目を集めています。

 3つ目は、就職・転職に影響を与える可能性があるためです。オンライン講座を全て受講し一定の成績を収めると、修了証が発行されます。特に、特殊な専門的知識を必要とする業界において、卒業証書や学位に代わりMOOCの修了証がその学生の能力を証明するものとして使われることがあります。

 

 また、海外の大学だけでなく東京大学もMOOCで講座を提供しています。例えば2013年度、東京大学はアメリカのコーセラ社と協定を結び、コーセラのプラットフォームを利用して、東京大学の教員による講座を配信する実証実験を開始しました。配信された2つの講座には、合計で80,000人を超える登録があり、修了者も5,000人を超えました。また、それぞれの講座には約150の国と地域から受講生が集まりました。このように東京大学の学生数をはるかに上回る世界各国の人々が、MOOCを通じて東京大学の授業を履修していることがわかります。

 

 次に、日本語版MOOCgacco」についてご紹介いただきました。上記の2つの講座を含め、MOOCの授業は基本的に英語で行われます。そのことが大きな壁となって受講するのが難しい人々も多くいらっしゃいます。こうした課題に応えるために生まれたのが、日本語版MOOCであるgaccoです。

 

 東京大学もgaccoに授業を提供しています。山内さんは、オンライン授業のみを行う「通常コース」に加えて、オンライン授業と対面学習を組み合わせた「反転学習コース」の開講をご提案されました。オンライン学習は、知識を習得するという意味ではかなり効果的な方法ですが、より深い思考力を身につけようとした場合、対面でのディスカッションやグループワークが必要になると山内さんは言います。

 「反転学習コース」には、13歳から82歳までの方が受講されたとのことです。対面学習では、世代の違う人々が同じトピックについて協調学習をするという新たな試みもなされました。事前にオンラインで基礎的な知識を習得しているからこそ、対面でのディスカッションはとても深く応用的な学習の機会となったようです。

 

 このように、実際に多くの高齢者がオンライン学習を進めています。では、MOOCは高齢者の学習に対してどのような意味があるのでしょうか。山内さんは、オンライン学習が普及することによって、①在宅で大学レベルの学習が可能になること、②無償で世界的な教育資源にアクセスできること、③人生を豊かにする学習が可能になること、という3つのインパクトがあると考えています。MOOCは、大学生にとってのみならず、高齢者にとっても有用な学習環境であると言えます。

 

 最後に、今後のMOOCにとって必要な挑戦についてうかがいました。山内さんは、「働き続けるための学習」をいかに支援するかを考えることが必要になると指摘します。その社会的な背景には、平均寿命の延伸や、それに伴う財政の逼迫、技術革新による職業の流動化があります。自分が高齢期を迎え、リタイアした後に働こうとしたとき、自分が培ってきた技術に頼って働けない可能性があることを忘れてはならないと山内さんは言います。そうした課題に応えられる学習環境を、MOOCを基盤としてつくっていくことに今後も取り組んでいかれるそうです。

 

 山内さんのご講演の後、質疑応答の時間が約1時間程度設けられました。その中では、gaccoでの対面学習の様子、MOOCの持続可能性、今後の大学の役割についてなど、様々な視点から議論が展開されました。

 

 山内さんのお話から、MOOCで様々な授業が提供されることにより、今まで学習できなかった人が学習できるようになるなど、様々な変化が起きていることを知ることができました。またオンライン講座を利用するだけでなく対面での活動を組み合わせることによって、興味のある学習内容で世代を超えた議論がなされているのだと知りました。学び続け成長する存在としての高齢者にとって、今後さらにMOOCが有用な学習環境になる可能性を感じました。

 今回お話いただきました山内祐平さん、お集まり頂いた参加者の皆さま、どうもありがとうございました。

〔ラーニングフルエイジング研究会・アシスタント:原田悠我〕