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2015/02/12

【開催報告】ラーニングフルエイジング研究会 第5回「ソーシャル・キャピタルとしての退職シニア」

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5回  ラーニングフルエイジング研究会

「ソーシャル・キャピタルとしての退職シニア」

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 学び続け成長する存在としての高齢者、その学習にはいったいどのような課題があり、それに対して私たちはどのような方法をとりうるのでしょうか。ラーニングエイジング研究会は、ミネルヴァ書房から2015年度刊行予定の書籍『ラーニングフルエイジング:超高齢社会における学びの可能性』との連動企画です。本研究会は、高齢社会に向けた学びの可能性について様々な研究者と話し、多角的に考えていきます。

 

 第5回の公開研究会は122日に福武ホールで開かれました。ゲストは神戸大学大学院 人間発達環境学研究科の片桐恵子さんです。「ソーシャル・キャピタルとしての退職シニア」というタイトルで、日本の高齢化の現状、定年退職と引退、社会参加の可能性、生涯発達と社会参加・市民参加についてお話しいただきました。

 

1. 日本の高齢化の現状

 日本は世界一の高齢国です。高齢者のなかでも後期高齢者の割合が増え、元気な高齢者とそうでない高齢者の分散が大きくなっているという現状があります。また後期高齢者の増加に伴い、認知症の高齢者が増加していく点も問題となっています。そのため今後、元気な高齢者については積極的に社会の担い手になっていく必要があると片桐さんは指摘します。実際に、団塊世代と呼ばれるこれまで想定されてきた高齢者は、まだまだ彼ら自身高齢者であると認識しておらず、これまでとは違うにシニア層になると思われます。

 団塊世代の高齢者らは、小学生の頃から会社生活にかけて競争社会に身を置いてきています。そのため定年に達したときに、人と一緒にいることに疲れたという人も多くいます。一方でNPOなどでこれまでと比較にならないほど活躍している人たちもいる、というようにこれまでよりさらに多様な高齢者層になっています。

 彼らの多くは就職時に都市に移動し、退職後も田舎に戻らず、そのまま都市に暮らす人が増えています。都会では一般的に社会参加率は低く、大都市では社会参加率の低下が観察されています。

 都市での社会参加率の低下の理由の一つには、高年齢者雇用安定法改正により65歳までの会社で働き続けることが可能になったことが関連しているでしょう。実際に65歳まで会社に勤める高齢者が増えていますが、その背景には自身の子どもたちがまだ自立していないということがあります。また、自身以外の家族に関わる介護問題にも直面しており、実父母、義父母、配偶者の長生きが想定されることで、団塊世代以前よりも介護問題が重くのしかかるようになっており、経済的に働き続ける必要性も高いと思われます。

 

2.定年退職と引退

 老年学の分野では、退職は、現役から徐々に職業から引退していくプロセス(過程)として捉えられています。つまり、働いている50代半ばくらいから徐々に引退過程に入るということになります。これは主としてフルタイムで働いてきた男性のモデルであり、一方、女性・妻については、主婦や仕事の役割が継続しなかなか終了せず、こうした役割は持続します。

 男性はこれまで自分を支えていた仕事役割、地位、収入、仕事ネットワーク、規則的な生活、外出の機会などを退職を機に失うため、生き方に大きな変化を求められることとなります。夫婦関係に関しても、夫婦がお互いに向き合う時間が長くなり、関係の再構築が必要になる場合があります。何かしたいことがあって定年を持っていた人以外にとって、定年はつまらないものになってしまう可能性があるのです。

 

3.社会参加の可能性

 では、定年退職にうまく適応するためにはどうすればいいのでしょうか。そこで、片桐さんが着目したのが「社会参加」です。社会参加の定義はあいまいですが、一般的にはグループに参加することを社会参加といいます。内閣府(2014)のデータでは、高齢者の社会参加の割合は10年前と、20年前と比較するとコンスタントに増加しています。しかし都市部に限定して見た場合、例えば練馬区においては、2002年と2008年の高齢者の社会参加率を比較してみると下がっていることがわかっています(片桐 2012)。さらに、練馬区と茅ヶ崎市で比較すると、茅ヶ崎市はもともとボランティア活動が活発な地域であったということもあり、練馬区とは10パーセントくらいの差があることもわかりました。このように、全国のデータを平均すれば社会参加率は上がっているものの、都市部では著しく下がっているというのが現状であり、地域差、ジェンダー差があるということがわかってきました。

 片桐さんは、高齢者の社会参加のモデル図として、社会参加位相モデルを考案しました(片桐 2012)。高齢者の活動の動機は様々であることが想定されるため、このモデルでは活動内容を、フェーズ0:無活動、フェーズ1:一人でする活動:、フェーズ2:グループ活動、フェーズ3:社会貢献活動に分類しています。また、各フェーズを規定する要因として利己的志向、ネットワーク志向、社会貢献志向が設定されています。フェーズの効果としての「サクセスフル・エイジングの達成度」と「社会的効益性」は、フェーズが上がるほど高くなっています。つまり、社会参加の度合いが高まるほど、その活動の結果の主観的幸福感が高く、社会から見たときの役立ち度も高くなるのです。

 それぞれの高齢者がどのフェーズにいるのかということについては、個々人の情報収集力等の様々な要因がかかわっています。このモデルを検討した結果からは、日本の社会制度は高齢者の活動をうまく支えられておらず、行政のサポートは不十分であり、またボランティアをしたくても受け入れてもらえない状況があるということがわかってきました。

 さらには日本の場合、フェーズ1からフェーズ2に移行するのが難しいという点も指摘できます。この難しさは「地域デビュー」にかかわるハードルであると考えられます。高齢者にとって地域のグループに入ることは、最初はとても怖いことでもあります。というのも、仕事上なら相手の反応も予測することができ、また相手がどのような人かもわかりやすいですが、地域には多様な人がおり、コミュニケーションの仕方にも工夫が求められます。

 夫の社会参加が夫自身に影響するかを見たとき、就業しながら社会参加活動をしている夫の方がそうでない夫よりも、自尊心が高かったという高い結果が出ています。このことは、働いてはいるものの60歳を超えると会社の仕事は面白くなく、社会参加に生きがいを見出しているのではないかということを示しているのかもしれないと片桐さんは考察します。また夫が社会参加をすることが妻に影響するかを調査したところ、引退した夫については夫が社会参加している方が生活満足度は高いという結果になりました。

 片桐さんがシニアの方にインタビューを行ったときに社会参加の大きな効果として皆さんがおっしゃっていたのは、地域で友達ができたということでした。退職直後は挨拶をするひともいないことに途方に暮れていたが、社会参加することによって自分が地域に溶け込んだ実感を得られたといいます。地域への愛着を測るコミュニティ感覚尺度においても、社会参加は非常に重要な要因だということがわかっています(片桐・菅原 2010)。

 

4.生涯発達と社会参加・市民参加

 片桐さんは、ここであらためて「社会参加」という概念を、老年学の分野で研究されてきた生産的活動(就労)や市民参加(政治的活動)と重なり合うものとして捉えます。このモデルでは、社会参加の中に生涯学習が含まれることになります。

 平成26年版高齢社会白書によれば、高齢者の生涯学習においては、見方がひろがったなどの効果を高齢者らが感じているということが分かっています。高齢者の生涯学習の場としてまず挙げられるのが、高齢者大学などシニア向けの生涯学習プログラムです。これらは、市民リーダーを育成する目的のものからカルチャースクールの市民版のようなものまで様々にあります。例えば、千葉県佐倉市の市民カレッジでは、市民リーダーを育成する4年間のカリキュラムが組まれています。このカリキュラムでは1年生の時点では掃除をし、まず体を動かすところから始め、4年間を通して皆が市民社会の担い手になるようにデザインされています。生涯学習の分類をした堀(2010)は、個人でやるか、集合でやるか、さらにはどのような媒体を利用するか、施設はどこか等の観点で生涯学習の方法の形態を分類しています。しかし、実際は何を目的としているのかによって学習内容が大きく異なってくると片桐さんは指摘します。

 次に就労に関して見ると、就労は、現在先進国全体としても高齢就労が奨励されており、日本人は就労意欲が高いと言われています。しかし、高齢者の力を活かすような就労条件が必ずしも実現されているとはいえず、これが現在の課題でもあります。

 さらに、市民参加を考えてみたときに、日本人は政治に関して話すことにあまり慣れていないということもあり、高齢者の政治活動は日本の老年学であまり研究されていません。市民参加は狭義では政治活動を指しますが、広義では地域の組織への参加などを幅広く含んでいます。活動を行うためには様々なスキルが必要になることから、そうしたスキルを身につけることは高齢者が社会参加するのにも重要なことであると片桐さんは述べます。

 最後に、市民参加と社会参加の重なる部分に位置するボランティアについては、高齢者にとって比較的取り組みやすいと言われているにもかかわらず、実際に活動しているのは高齢者全体の1割を超えるくらいでしかありません。なかなかボランティア参加が進まない理由の1つには、日本ではボランティアはとても奇特な人がするというイメージで考えられていることがあります。

 平成24年度高齢社会白書では、ボランティアをする人たちの多くが自治会や町内会への参加によりボランティアを行っていることになりますが、メンバーではありつつも積極的に参加しているかどうかはわかりません。

 片桐さんは、ともかくまずは参加をすることが大切だと述べます。生涯学習、発達、自己実現に関する文献を見ていると、それらをどう社会が支えるかという視点はあっても、相互作用という視点は少ないのが現状です。能力のある高齢者が増えていく一方で、政府は社会とのかかわりにあまり期待していないのではないだろうかという疑問も出てきます。若い高齢者を活かすようなシステムを考えていくべきであり、高齢者自身も活動によってより豊かな自分になるということを自覚するより成熟した市民を目指す必要があるでしょう。

 

 片桐さんのご講演の後、約1時間程度の質疑応答の時間が設けられました。単身世帯ではどのような結果になるのか、社会参加の国際比較について、企業の参入と高齢者自身の活動のモチベーションの維持について、高齢化社会での大学の役割とは等、活発な議論が交わされました。

 片桐さんのお話から、データに基づいて高齢者の社会参加の現状を知ることができ、また社会参加への意欲と制度的側面とのミスマッチ、都市の高齢者のコミュニティの希薄さなど、様々な問題がよりクリアに立ち上がってきました。今後さらに高齢化率は高まります。ある一定の年齢、あるいは定年退職や年金受給という区切りで捉えていた高齢者像を、今一度再考する必要があることを強く意識しました。

〔ラーニングフルエイジング研究会・アシスタント:宮田舞〕